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【アラベスク】  第3章 盲目Knight



第2節 西からの風 [3]




 湧いた疑問を払いのけるように、目の前の教科書を凝視した。
「英語?」
「…………」
 無視だっ 無視っ
 だが瑠駆真は、単に聞こえなかっただけと判断したらしい。
「英語? グラマーだね」
 手元が微かに陰る。
「僕、英語って苦手でさ」
 だから何よ?
「海外に行ってたのに英語で点数取れないなんて……… ね」
 自嘲気味に言って背凭れに身をあずける。手元に落ちていた瑠駆真の陰が去り、ホッとする。
 模試が行われるたびに、上位二十人が発表される。そのたびに掲示板の前でざわつく同級生とは対照的に、まじまじと己の順位を確認したことはない。確認せずとも、全教科一番であることは間違いないのだ。その事実には、絶対の自信がある。
 だから、他の人間がどのくらいの位置にいるのかなども、当然知らない。
 だが二年に進級直後の校内模試で、瑠駆真や聡がかなりの高位置に名前を入れてきたらしいことは、女子生徒の甲高い噂声で知らされてしまっている。
「この間の校外模試も、あんまり自信ないんだよね」
 そう言って、瑠駆真は再び美鶴の手元を翳らせた。
「………美鶴は?」
 まだ少し言いにくそうな、歯切れの悪い呼びかけ。
「やっぱり余裕?」
「別に、余裕なんてない」
 嘘だ。今回もまた、全教科総ナメだと確信している。と言うよりも、そうでなくては、校内での面目が保てない。
「そう?」
 (がん)として冷たい態度を貫く美鶴に、瑠駆真の方が痺れを切らす。美鶴の視界を、長い指で遮った。
「――――っ!」
 剣呑な視線を投げてくる相手に、だが瑠駆真は、もう片方の手で軽く制す。
「よかったら教えてくんない?」
「は?」
 ワケがわからず眉を潜める。
「英語」
 そう言って、傍らに置いてあった鞄から、同じ英語の教科書を取り出す。そうして唖然とする美鶴をよそに教科書と、その横にノートと筆箱を陳列する。
「今日の授業でここんとこやったんだけど、いまいち理解できなくってさ。なんでここにofが来るワケ?」
 言葉もなく固まる美鶴に、平然と質問する。
「……… 美鶴?」
 目をクリクリとさせて顔を覗きこまれ、ようやく我を取り戻す。
「なんで私が教えなきゃならないのよ?」
 憮然と答えるも、返ってくるのは華のような笑顔。
「いいじゃない。復習すると思ってさ」
 美鶴の開いているページは、瑠駆真のそれよりもっと先。美鶴は常に、授業より先を予習している。
「冗談じゃないわよ」
「なんで?」
「なんだってアンタに……」
 だがその先の適当な理由が思いつかず、視線を泳がせる。瑠駆真はじっと、答えを待つ。
 ムカつくなぁ







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